愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

出発(7/20・14:00開演・コラニー文化ホール)

山梨まで行ってきた。ほうとうと地鶏と信玄餅アイスを食べた。食べ物は良かったが、やっぱりつかこうへい&ニッキとはまったく気が合わない。前回の『熱海殺人事件』も駄目だったし、かつて風間さんが出ていた『蒲田行進曲』も何が良いのかさっぱりわからなかった。つか舞台の登場人物はみんな少しずつ狂っていて、男と女のことや生と死のことを露骨な言葉でまくしたてるように話しまくる。その奔流の中に何かを見つけられればいいんだろうが、私はそこに何も見つけられなかった。ただ、一方的にぶつけられた抜き身のような言葉に傷付けられ疲弊し、とてつもない疲労感だけが残る。

直截的な言葉を連ねるだけなら、フィクションである必要はないと思うし、エンターテインメント性のないフィクションに存在意義を感じない。私の感性が大衆的で鈍いのもいけないんだと思う。『水球ヤンキース』は楽しいが『ダークシステム 恋の王座決定戦』はさっぱり分からなくて一話で見るのをやめてしまった。私は分かりやすいものしか分からないのだ。ホームコメディチックなポスターとあらすじに多少期待していたが、やはり私の苦手なつかこうへいだった。

そんな狂気的な舞台の中に、戸塚さん自身の「右利きに飽きたから左利きになった」というエピソードが組み込まれていたが、それが戸塚さん演じる一郎のキャラクターと絶妙にマッチしていて、この舞台に溶け込むことができる過去を持つ戸塚さんはやはり狂気の人だと再認識した。スーパーマンになろうとして飛びまわる戸塚さんの狂気もよかった。つかこうへいの言葉は戸塚さんの狂気にすんなり寄り添うのだろう。台詞をまくしたてる戸塚さんはとても気持ち良さそうだ。

父親が蒸発したため残された家族ががんばる、というのがざっくりとしたストーリー。その父親は実は黙って旅行に行っていただけで、大騒ぎした手前近所の人に本当のことを言い出せず、そのまま父親を地下に住まわせていた、というシュールな展開は嫌いじゃない。一家の大黒柱が蒸発したというドラマチックな出来事を無理矢理続行させ、各々が物語の主人公になろうとするメタ的な展開も嫌いじゃない。だけど、登場人物たちの話し方や言葉遣いや過剰な演出がどうも好きになれない。単純に好みの問題なのかもしれないが、戸塚さんがこんなにも楽しそうなのに1ミリも理解できないことが少し悲しい。


と、ここまで書いたところで少しは理解する努力をしようと思って、つかこうへいの台本(このサイトで無料で公開されている)を読んでみたんだけど、舞台は大分原作よりは分かりやすくマイルドな仕上がりになっているみたいだ。この舞台が見ていて辛いのはニッキが戦犯だと思っていたけれど、むしろニッキのおかげでワイルドが多少マイルドになってるのかもしれない。ニッキのせいでうっとうしい部分もあるとは思うけど。戸塚さんは二回『奥の細道』の序文を読みあげるけれど、これは原作にはないくだりだったので、このあたりに今回の舞台の主題が隠されているのかもしれない。もう一度新橋でも見るので、次回はもうちょっとがんばって見よう。