愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

入院前夜

昨日、自然気胸になって入院した。1年4ヶ月ぶり、2回目である。


女性がなりやすい気胸として、 月経随伴性気胸というものがある。子宮内膜症ではがれた子宮内膜が横隔膜に癒着し、肺に穴が開いてしまうらしい。しかし、私がなった気胸は月経とは関係ない。相葉ちゃん、内くん、戸塚さんもなった自然気胸というものである。
上記の方々がなっているため、ジャニヲタはある程度気胸に対する知識のある方が多いと思うが、特に具体的な理由もなく、ある日突然肺の薄い部分が破れて穴が開いてしまうものが自然気胸である。自然に穴が開くから自然気胸というらしい。空気の漏れた肺は風船のように潰れて息ができなくなる。肺は2つあるので、1つが潰れても死なないが、そんな時にもう1つ潰れると死に至ることもある。
気胸は基本的には若くて細くて背の高い男性に多いため、イケメン病なんて言われることもあるが、私は若くもなく細くもなく背は知念様より少し高いくらいの女である。知念様というイケメンを病的に好きではあるが、イケメンではない。病院でも何度も「女性がなるのは珍しい」と言われた。


前回気胸になった時は、ノートに自分の入院記録を書きつけていた。しかし、ノートだといざという時に手元にないと読めない。またネット上には女性の気胸経験者の記録が圧倒的少ない。

自分の備忘録として、また数少ない女性の自然気胸患者の経験談として、今回はネット上に記録を残そうと思う。あくまで個人的な記録なので面白くないし、不快ですらあるかもしれない。ジャニヲタの方は、相葉ちゃんや内くんや戸塚さんもこんな苦しみを味わっていたということの参考にもなるかもしれない。


最初に息苦しいと感じたのは日曜日の夕方だった。うちに宝塚のDVDを見に来た友人たちを駅まで送ったあたりから息苦しさを感じた。ただ、1年4ヶ月前に気胸で手術を受けてから低気圧の日は胸が痛むことも多く、いまいち判別がつかなかった。
想像妊娠ならぬ想像気胸の症状に陥る気胸患者は多い。再発率が高い上に症状も治療もかなり辛い病気なので、少しでも息苦しいと気胸再発の恐怖に突き落とされる。
気胸はレントゲンを撮ればすぐに分かる。肺には血管が張り巡らされており、レントゲンを撮ると血管が白く網状に写り込む。気胸になると肺が潰れるため、肺のあるべきところに黒い空洞が写る。去年の今頃も胸の痛みを感じ、心配になってレントゲンを撮ったが何もなかった。そのレントゲンを見ると安心して息苦しさもなくなる。人間は弱いけれど図太い生き物だと思う。

とりあえず日曜日だったので、その日はそのまま眠ったが朝になっても息苦しさは消えない。再発が頭をよぎり、入院してもいいように最低限の荷物をまとめ家を出た。
しかし、月曜日に仕事中に抜け出して、会社の近くの病院でレントゲンを撮ると肺は膨らんでいた。よかったと一瞬安堵したが、苦しさは去らない。想像気胸だとここで苦しさがなくなるはずである。
なんとなく不安がよぎり、外に出る営業の予定はすべてキャンセルし事務仕事をひたすら行う。鎖骨の下、中央よりやや右寄りのあたりから、かすかだが聞き覚えのあるポコポコという音がし始める。 水槽に酸素を送るポンプのような音、かつても経験した肺から空気が抜ける音だ。まさかと思いつつ、仕事は定時で切り上げ、会社近くの一人暮らしの家ではなく実家に帰った。気胸は悪化すると息ができなくなり、倒れてしまうこともあるので、一人では不安だった。入院していた病院は実家のすぐ近くなので、色々な意味で実家の方が安心だった。smartのDVDを持ってこなかったことが心残りだった。


火曜水曜と普通に仕事をした。だが、外に出るアポはキャンセルするか、上司に任せた。少し話すだけでも苦しくなり、階段を数段上り下りするだけで肩が上下するほどの息切れを起こした。肺が漏れて空気が胸郭に貯まるせいか、あまりお腹も空かなかった。右胸からは呼吸とともに時折ポコポコという音がなる。
夜、寝る時には背中の右側に鈍痛と息苦しさを感じた。仰向けで寝ると背中が痛いので、左胸を下にして横になると息苦しくなり、右胸を下にすると右胸の下の方がひどく痛んだ。結局、仰向けで寝るのが一番マシだった。以前気胸になったのは左だったが、その手術の際に右にも薄いところがあると言われたことを思い出し、やはりまた開いたのでは?と不安になる。だが、じっと眠っているせいか朝になると少し体調は良くなっているので、やはり想像気胸かな?と自分を騙し騙し会社に行った。


水曜の夜になると、まるで気管支を塞がれているような重い息苦しさが絶え間なくつきまとうようになった。平坦な場所を歩くのも辛かった。右肩から背中にかけて、ひどい肩こりのような痛みを感じ、右腕の痺れも出てきて、いよいよやばいと感じ始めてきた。月末の繁忙期なのでせめて今週は休みたくなかったが、このまま倒れる方が迷惑だと思い、最低限ここまでやればとりあえずどうにかなるだろうというところまでやって、木曜日に休みを取ることを願い出た。少し残っていた仕事は上司にぶん投げた。


そして木曜日、入院していた病院に診察を受けに行った。親は楽観視していたが、私は入院準備をしたカバンを一応親に渡しておいた。母からは「自転車で行けば?」と言われたが、そんなことしたら死ぬので、お願いだから車かタクシーで送ってくれと懇願した。結局、父が車で送ってくれた。

9時過ぎに病院に着く。この病院はとにかく待たされるので、最低でも午前中いっぱいはかかると思っていた。実際、待合室は人でいっぱいだった。

しかし、受付で問診票を出すとすぐに呼び止められて、その場で酸素量と脈拍を測られた。太った陽気そうな看護師さんに「脈拍めっちゃ早いんだけど!!」と何度も言われた。確かに少し歩いたので息切れと動悸がしていた。
それから15分ほどで診察室に呼ばれ、まずはレントゲンを撮るように言われた。レントゲンを撮るために着替えるだけでも息が切れる。レントゲンを撮り終え、30分くらいすると再び呼ばれた。
先生が「前回は左だったんだよね?」とおっしゃった。その尋ね方に嫌な予感がしつつ「はい」と答えると、「今回は右です。ほら」とレントゲンを指さした。そこには二回りほど小さくなった右の肺が写っていた。