愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

『蹴りたい背中』綿矢りさ

蹴りたい背中』も『蛇にピアス』も読んでいて文章の喉ごしの良さが気になる。つるつる入ってきて違和感を感じないことに違和感を感じる。私が現代文学をあまり読まないのは、文章そのものに強烈な個性を感じる人があまりいないからだろうなぁ(と、ろくに読んでもいないのに思っています)。そういう意味では舞城王太郎にすごく興味があるんだけれど、誰か貸してくれないかしら?
この小説の準主人公の「にな川」は「オリチャン」という女性モデルのファンで、彼女が載っている雑誌を集めたり、彼女のラジオを欠かさず聞いていたり、彼女が出没したお店に行きたがったりして、「やだ、相当なオタクだね〜。」なんて言われちゃったりしているんだけれど、読んでいて思いました。
別に普通じゃん。
いや、普通の人から見たら普通じゃないのかもしれないですけれど、過去2年分のアイドル雑誌がうずたかく積まれている(やっさんのインタビューを読み返しているため)部屋でこの小説を読んでいる私の身といたしましては、彼を「キモいオタク」という目でみることができないのです。むしろこんなネット上に萌えを垂れ流している私の方が、イヤホンをしてひっそりラジオを聞いている「にな川」よりもキモい気がする。「マーメイド」のやっさんを「あー、今の動きやばい!」と巻き戻ししながら見ている私の方がキモい気がする。
そういう調子で読んでいるうちに視点がずれてきちゃうんですね。しまいには「一緒に行く人がいないライブチケを4枚も取る人いるのかしら?4公演分買うなら分かるけど」とか、「ライブあきらかに1時間以上はやってるよね?オールスタンディングにしても3500円は安いわ」とか、「開場時間と開演時間は違うから焦らなくていいよ」とか関係ないことばかりに目がいくようになって、気がついたら話が終わっていました。自分がジャニファンじゃなければ、また違った気持ちで読めたと思うのですが…。
女子高生の嗜虐性に満ちた歪んだ愛というモチーフにしても、喜国雅彦の『月光の囁き』という傑作があるしなぁ*1。全体的に薄い印象しか持てなかったです。『インストール』の方も読んでみようかしら?
とにかく是非ともジャニファンの方々に読んでいただきたい小説だと思いました(そんな感想…)。
それと綿矢りさのインタビューを読んで「りさタンハアハア」という人の気持ちがちょっと分かった。あのビジュアルにあの京都弁はたまらないわ。

*1:「もっと泣いて、ほんで私を幸せにして。」という台詞は、この筋の作品の中でも屈指の名言だと思う。