愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

シブヤから遠く離れて

断じてそんなつもりはなかったんです。ただ渋谷で説明会があって、欲しい本があったから帰りにブックファーストに寄ったんです。目当ての本は見つけたものの状態が良くなかったのでとりあえず保留にして本屋を出たら、たまたまBunkamuraが目に入りました。正面にあるんだからしょうがない。そこには『シブヤから遠く離れて』の垂れ幕がかかっていました。「にのみーががんばってる場所の見学でもすっぺ!」と軽い気持ちでシアターコクーンの方に歩いていきました。そこには当日券待ちで列を作るお嬢さん方がいました。んで、気付いたら私も当日券をゲットしていました。テヘ☆
お金ないのに観ちゃったよー。就活の交通費すら捻出できない私にママが「誕生日に何もあげてないし、これで靴でも買いなさい」と言ってくれたお金だったのに…(「靴でも」とわざわざ言ったのには「この金で風間の舞台を増やすとか言うんじゃないよ」という言外の含みもあったと思われる)。ごめんなさい…。通路の階段に座布団を敷いて観る席だったのですが、センターだったので非常に見やすかった。位置的にはS席なのに1500円も安いなんて素晴らしい。
で、肝心の内容。「ラブストーリー」と銘打たれている以上、これはラブストーリーなんだろうけれど…うーん。これをラブストーリーというのなら非常にディスコミュニケーションな恋愛だと思う。なんつーか、会話がチャットでの会話のように微妙にちぐはぐで、きちんと意志の疎通をしている人が一人もいなかった。アオヤギ(杉本哲太)だけは少し違ったかな。意味深な言葉を紡いで、よくわからないうちにちぐはぐに会話が進行するっていうのは単なる現代演劇の傾向なのかもしれない。私にはよく分からないけど。
とりあえずナオヤ(二宮和也)に関して言えば、彼は相手がコミュニケーションを取れない状態になってからしか、その人とコミュニケーションを取ることができない。人と真向から対峙することを避け、すべてのことをのらりくらりとかわしながら生きているという印象。そのくせ友人のケンイチ(勝地涼)の母親に対して強い執着を持っていたりするので、愛が欲しくないわけではない。前号の「Top stage」で「とにかく“愛情”や“ぬくもり”を求めているんだと思うんです」と二宮さんは言っているけれど、これも一つの真実だろう。実際はよく分からん。最後のフナキ(勝村政信)とのシーンは唯一彼が人に真正面から向き合ったシーンだった気がする。
というかねー、マリー(小泉今日子)よりもフナキとの方がラブだった気がしなくもないのよ。『青の炎』でも思ったけど、二宮さんって異性との絡みより同性との絡みの方が妙にエロいよなぁ。正確に言えば絡みというか半ば脅されているんだけど。二宮さんの怯える演技は一見従順そうに見えるのにすさまじい芯の強さを感じる。体の自由は奪えても心の自由までは奪えない、と信じている強さというか。そこがなーんかエロいと思うのよねぇ。信念を持ってる人って色っぽいよねぇ。
話が逸れた。えっと、ドラマ「マンハッタンラブストーリー」がディスコミュニケーションな恋愛の「ポジ」であるなら、こちらは「ネガ」と言ってもいいかもしれない。奇しくも小泉さんがどちらも出演なさっているし。と言い切るのは少し大胆かなぁ。うーん難しい。もやもやとしている考えはあるのでもう1回観れば少しは形になる気がするんだけど、明日は楽だしもう無理だなー。でも観られてよかった。とにかくみんな孤独だった。出る人出る人みんな孤独だった。孤独の嵐みたいな舞台だった。
舞台そのものは音楽と光と色の使い方が印象的だった。巧いというか印象的。特に闇に浮かんだ真っ赤なゼラニウムはしばらくまぶたの裏を離れそうにない。二宮さんの声が好き。なんとなく舞台向きだと思う。小泉さんは綺麗だったー。勝村さんはちょっとイカれた演技が素敵だった。蒼井優勝地涼も好演。特に勝地涼が初舞台というのが意外だった。もともとそっちからきたと勝手に思っていたよ。杉本哲太さんは結構噛んでたけど、味はあったかな。オペラグラスがないので細かい表情等は見られなかったけれど、かえって舞台そのものに集中できてよかったと思う。観ている途中に「ジャニーズファンになって良かった」と心底思った。だってジャニファンになってなきゃこの舞台も見ていないもの。個人的には非常に面白い舞台でした。あーもう1回観てぇよー。