愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

異類女房譚

動物が美しい女の姿になって貧しい男のもとに嫁に来るという民話をまとめてそう呼ぶ。有名なのは『鶴の恩返し』とも呼ばれる『鶴女房』で、他にも『蛇女房』『蛙女房』『魚女房』『蛤女房』『狐女房』『猫女房』なんかがあるんだけど、その中から『蛤女房』の話をしようと思います。

あるところに貧しい男が一人で住んでいました。
そこへ一人のべっぴんさんが風呂敷せおってやってきて
「結婚したいの!結婚して!」と唐突に頼みました。
「いやいや、あんたみたなべっぴんさん、おいらにはもったいないよ」
と断る男を押しのけて女はガシガシ家へ上がりこみ勝手に料理を作りはじめました。
それがなかなかおいしいのと、女が強引なのとでなあなあに過ごしているうちに
二人は男女の仲になってしまったので夫婦になりました。
さてそんなある日、男は妻に関する妙な噂を町で聞きます。
その話が信じられず、仕事にいくふりをして台所を覗いていたところ、
噂どおり妻は鍋にまたがって、ちゃっちゃと小便をしてました。
「お前、そんなものをおいらに食わせていたのか!」
と叫びながら飛び出してきた男を見て、よよよと泣き崩れる女。
「私は昔あなたに助けてもらった蛤です。その恩を返すために毎日美味しい味噌汁を
 作っていたのですが、正体を知られたからにはもはやここにはいられません…!!」
そうして女は貝の姿になって海に飛び込んでしまったそうな。
関敬吾『日本昔話集成』をもとに要約)

多分に笑話的な要素を含むこの『蛤女房』なのですが、好きな人のためにわが身を削って(絞って?)味噌汁を作る女というのがなんともいじらしくてかわいいなぁと思います。ビビアン・スーが昔「好きな人なら、鼻くそも甘い」とテレビで言っていたのを聞いたときと同じような気持ちです。私は好きな人でも鼻くそは勘弁ですけど。うちのゼミの先生は「美人で料理がうまいなら、それでいい気もするけどね」と言っていたので、今度はうちの先生のところに行ってあげればいいと思います。