愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

パノラマ島奇談

江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』(別名『乱歩先生やりたい放題』)は改めて読むとすごい話だ。

「千代子、これがわたしたちの乗り物なのだ」
 広介は千代子の手をとって、数人の裸女によって作られた蓮台の上におし上げ、自分もそのあとから、千代子とならんで、肉の腰掛けに座をしめました。
 人肉の花びらは、開いたまま、その中央に広介と千代子を包んで、花の山々をめぐり始めるのです。
江戸川乱歩 『パノラマ島奇談』)


人肉の花びらって!イカれてる!!『家畜人ヤプー』を読んだときも「沼正三イカれてる!」と思ったけど、沼さんの陽気に弾けたイカレっぷりに比べ、乱歩先生の方は芸術に仮託している分、静謐な異常性が感じられて怖い。乱歩先生の女体に対する思い入れは一種の信仰に近いと思う。よく結婚なんてできたもんだ。「数人の裸女によって作られた蓮台」の視覚的イメージがまったく湧かないのだが、美しさとグロテスクさが同居した生あたたかい夢のような感覚は伝わってくる。この作品、終わり方もすごい。なんだこれ。

でも乱歩作品で一番エロいのはやっぱり少年探偵団シリーズだと思うの。乱歩先生は怪人二十面相になって小林少年をさらいたかったに違いない。同じ嗜好を持つものとして分かる(勝手な共感)。小林少年はしょうがないよ。好きにならずにいられない。その一方でたくましい明智小五郎のような青年に惹かれる気持ちもあるんだよね。その気持ち分かる!私も生田さんと山田様の間で揺れっぱなしだもん!少年探偵団シリーズの何かを読んだ時に「これは『孤島の鬼』で書けなかったことを書いてるに違いないわ」と思ったんだけど、なんだったかなー。青年同士だと生々しくて書けないことも、少年同士なら「こども」ということを隠れ蓑にして色々書けるからね。乱歩先生はやっぱりいいな。好きです。

パノラマ島奇談 (江戸川乱歩文庫)

パノラマ島奇談 (江戸川乱歩文庫)