愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

『野ブタ。をプロデュース』は単なる青春ドラマじゃない!と言いたいだけの長文

私が今夢中になっているドラマは『野ブタ。をプロデュース』と『花より男子』です。はっきりいってどちらも全然期待していなかったんですよ。花男井上真央ちゃん以外のキャスティングに文句を言っていたし、野ブタはジャニーズ人気によっかかっただけの原作ファンがぶち切れるような(ちなみに私は読んでいませんが)内容になると思っていましたし。なのに今じゃどっちにも夢中ですからね〜ジャニヲタやってなきゃどちらも見ていなかったと思うので、ジャニヲタでよかった☆って感じです。


野ブタ花男、どちらもジャニーズのタレントを主役に据えた高校が舞台のドラマです。ベクトルはやや違うものの、どちらも青春ドラマのように見えます。がしかし、実は私は野ブタは青春ドラマなんて言葉でくくれるドラマではないと思うのです。このドラマの形式を突き詰めていくと、このドラマが青春ものだなんてまったく言えなくなってしまうのです。人間の根源にあるものを青春ドラマという皮を被せて抉り出したドラマ、それが『野ブタ。をプロデュース』というドラマだと思うのです。「青春アミーゴ」なんてタイトルの曲を主題歌にしたのは、このドラマを青春ものであるように見せるための布石だったのではないかとすら思えます。


小説で、最初と最後にプロローグとエピローグが付され、回想部分が本編となっているようなものを額縁小説と言います。時の流れとしては「現在→過去→現在」となっており、過去の部分が本編となっているような小説です。本編が額縁のように挟まれているからこのように呼ばれます。同様に最初と最後に明らかに回想と思われる独白が挿入されるドラマ(『北の国から』のようなドラマ)のことを「額縁ドラマ」と呼ぼうと思います。野ブタは毎回最初と最後に修二の回想型の独白が挿入されるので、「額縁ドラマ」と呼んで差し支えないでしょう。というか呼びます。


この額縁形式は小説であれ映画であれドラマであれ、基本的に悲劇やホラーに使われることが多いです。なぜならこの形式は「あの時ああしていれば…」「こうなるとは思いもよらなかった」というようなネガティブな言葉で物語の引きを作る場合に効果的な手法だからです(と勝手に思ってます)。野ブタは妙に暗い印象のあるドラマです。花男が圧倒的な光に満ちているのに比べ、野ブタにはなかなか明けない冬の夜のような暗さが垂れ込めています。野ブタというドラマの持つ圧倒的な暗さはこの形式から来ているのではないかと個人的には思うわけです。


さてこの額縁ドラマという形式は青春ものには合いません。青春残酷物語になら合うでしょうが、爽やかな青春ものには合いません。この形式を取り入れて失敗してしまった青春ドラマが『がんばっていきまっしょい』です。このドラマは何を血迷ったのか(原作がそうなのかもしれませんが)、毎回冒頭に本編の数年後の映像が置かれ、本編はボート部のコーチであった石田ゆり子が生徒に語って聞かせるという額縁ドラマの形式で作られていました。


青春ドラマというのは若者の一瞬のきらめきを切り取っているからこそ魅力的なものだと私は思っています。若者には未来があります。光り輝く無限の可能性があります。それでいて刹那的な存在です。そういう刹那と永遠を併せ持つ若者の眩さが青春ドラマの醍醐味なのです。なのに回想形式なんかで語っちゃあ台無しでしょ。だって先が見えているんだもん。先が見えている青春ものなんて、犯人の分かっている推理小説と同じですよ。なんて味気ない。毎回あの冒頭で出鼻を挫かれ、結局半分くらいでこのドラマは脱落してしまいました。悦ねえの性格についていけなかったということも理由の一つですが。


すさまじく長い前置きとなってしまいました。何が言いたいのかというと、野ブタは一見「青春ドラマ」です。そして先に述べたように修二の独白が入る「額縁ドラマ」です。「青春ドラマ」と「額縁ドラマ」は相容れないはずなのに、なぜか不思議と合っているんですよ。むしろあの形式だからこそ良い。なぜ合うのかというと、このドラマは本当は青春ドラマなんかじゃないからなんじゃないかと思うのです。このドラマが本当に描きたいものは青春なんてものではなく、もっと人間の根源的なものだからだと思うのです。


…ここから、このドラマの主題は人間のニ面性→修二は二面性の塊→何も考えていなそうな彰にすらニ面性はある→ぶっちゃけ登場人物のほとんどにある→それに対して野ブタは普通に生きるのが困難なほど二面性がない→そんな野ブタが自分のニ面性の間でもがいている人間を救う人間再生ストーリー、それがこのドラマなのです!素晴らしい!という別に面白くもない結論を書こうと思っていたような気がします。なんでこんなことをこんな大げさに書こうと思ったんだろう。でもこのドラマは今でも素晴らしいドラマだと思ってます。