愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

「IZO」(12:30開演)

IZO」を観てきました。「森田剛」「新感線」という二つのキーワードだけでチケットを取ったため、内容についてはまったく知らないまま青山劇場に赴き、タイトルから勝手に近未来のお話なのかなぁと思っていたら、幕が開いて出てきたのはお侍さん、なんでも舞台は土佐のようで「イゾーってもしかして、岡田以蔵の話なのかしら?」なんて今更なことを思っていたら武市半平太が登場し、ああやっぱりそうなのねと思ったのでありました。しかもシリアスだった。コミカルな舞台を勝手に想像していたのでびっくり。そんなことすら知らないで舞台を観に来るなんてこの舞台に携わっている人や、きちんと楽しみにしていた人(別に私もいい加減に楽しみにしていたわけではないのですが)に対して失礼な態度だ、こういう「『その人』が出ていればその作品の内容自体については得に吟味せずとりあえず無思考に飛びついてしまう」私のような人間がこの事務所を増長させてしまうのかもしれないとかなんとか、とにかく始まった当初は反省の念しきりだったのですが、見終わったころには「ジャニーズファンであるからこそ実際に良いか悪いか分からない作品にも果敢に飛びつけるんだし、その結果良い作品に出会えることの方が多いし、やっぱり無思考に飛びつくのもそれほど悪いことじゃないな」と思うに至りました。要するに良かった。とても良い舞台でした。3時間を超える長丁場の舞台なのに、まったく長さを感じず最後まで引き込まれっぱなし。これ、脚本家と演出家が巧いんだろうなぁ。役者の方々ももちろん素晴らしかったのですが(特に戸田恵梨香ちゃんは良かった)、脚本と演出がだめだったらだめですもん。というわけで、ここまでも充分長かったのですが、これからもっと長くなるしネタバレも含まれると思うので、以下隠します。




この舞台、幕が開いて閉じるまでの間に10年くらいの年月が流れているんでしょうが、史実にかなり忠実に作られている(たぶん)ので、色々な事変や政変が起こるし人間関係もそれなりに複雑です。けれどもそういう部分に対するとっつきにくさがほとんどない。脚本家の方がうまいことまとめていることも大きいと思うんですが(あと私が『竜馬がゆく』が好きだからということもあると思うんですが)、それ以上に大きいのが主人公が岡田以蔵であることだと思うんです。たぶんこの舞台で以蔵がもっとも言った台詞は「分からない」なんじゃないかと思うんですが、そもそも主人公である以蔵自身が政局や状況をよく分かってないのです。肝心の主人公が分かってないんだから、観客だって分かってなくてもさして問題ないのです。むしろ「分からない」という点で以蔵に共感すらおぼえるかもしれません。私は観劇中でもすぐぼーっとしてしまうので、気付くと話の筋が分からなくなっていることが多々あるのですが、この舞台では分からなくなっても安心でした。だって以蔵も分かってないんだもん(笑)
個人的に、岡田以蔵って物語の主役としてあまり魅力的ではないと思うんです。人斬りとして確かに有名だけど、性格は粗野で乱暴、思想もへったくれもないし、何より幕末には新撰組やら坂本竜馬やらもっと魅力的な人物がたくさんいます。ただ複雑な幕末の歴史と、それに翻弄された若者を同時に描きたいのならば、以蔵くらいうってつけの人物はいないのかもしれません。演じ手である剛くんとの親和性も高く、非常に良い主人公でした(変な表現だ)。


それとやっぱり脚本と演出が巧い。
こういう長い年月を描く舞台はどうしてもある程度の月日は端折らなければならないので、唐突に感じられる場面転換が結構あったりするのですが、この舞台にはほとんどなかった気がするんですよね。いや、実際にはあるはずなんですけど、感じなかった。まず脚本家の史実の取捨選択と換骨奪胎が巧いんでしょう。その上で観客の意識にするりと入り込む演出が巧妙にほどこされていたんだと思います。でもメリハリはあるんですよね。私はどんな舞台でも大抵数分は寝てしまうのですが(たまにコンサートですら寝る。つまるつまらないの問題じゃなくて、たぶん暗いところでじっとしていることが苦手なせい。ジャニーズファンとして致命的です)、これは1秒も寝なかったですもん。私を寝かさないなんてすごいです。


というわけで、すごく満足度の高い舞台でした。ジャニーズの人が出ていない時の舞台と観比べてみたいですね。客層が違う分、雰囲気がずいぶん違いそうだ。