愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

「真夜中のシャドーボーイ」と大人たちの密かな欲望

いやらしい大人の「真夜中のシャドーボーイ」考。

「真夜中のシャドーボーイ」
作詞:ma-saya 作曲:馬飼野康二 編曲:馬飼野康二石塚知生

真夜中のシャドーボーイ

真夜中のシャドーボーイ






真夜中のカーボーイ」という映画があります。本来であれば「カウボーイ」と表記すべきところを「カーボーイ」としているのは水野晴郎氏の発案によるものだそうです*1

「真夜中のシャドーボーイ」の歌詞中に「真夜中のカーボーイになって」というフレーズがありますが、作詞者のma-saya氏は明らかに映画「真夜中のカーボーイ」を意識してこの詞を書いており、そのことはこの曲のタイトルが「真夜中のシャドウボーイ」ではなく「真夜中のシャドーボーイ」であることからもうかがえます。


真夜中のカーボーイ」はアメリカンニューシネマの代表作と言われる作品で、ものすごく簡単に言うと男娼とチンピラの友情物語です。その題材のせいで当初は成人指定を受けていたとのこと。以下、簡単なあらすじ。

ニューヨークの金持ちの女はみんなカウボーイのような男が好きだと思い込んでいる主人公のジョー(ジョン・ヴォイト)は、カウボーイスタイルに身を包み、男娼になって一発当てようとテキサスの田舎から出てくる。が、何のノウハウもツテもなくてうまくいくわけもなく、ジョーはたまたま出会った足の悪い小物のチンピラ、リコ(ダスティン・ホフマン)と力を合わせてなんとか男娼稼業を成功させようと奮闘する。ひょんなことからようやく仕事が軌道に乗りそうになってきたときに、長年の不摂生がたたったのかリコの身体は急激に衰弱し、ろくに歩くこともできなくなってしまう。ジョーは彼がずっと行きたがっていたフロリダに行こうと高速バスに一緒に乗り込むのだが……。


真夜中のカーボーイ」、それはつまり片田舎の男娼のことなのです。


JUMPっこたちもファンのお嬢さんたちも、まさか「真夜中のカーボーイ」がいなかっぺの男娼だなんてつゆ知らず、「真夜中のカーボーイって意味は分からないけどなんかかっこいいな♪」と思いながら歌ったり聴いたりしているのでしょう。
歌い手が「真夜中のカーボーイ」なら、この曲に出てくる「君」とはチンピラのリコのことです。やっぱりそんなことはつゆ知らず、お嬢さんたちはこの曲の「君」に自分を重ねて、山田様の「シャドー…」に対して絶叫しているのでしょう。


映画の内容を知っていれば、「いつでも願いは届かない」というフレーズはこの上なく切なく響くし、「もし君が望むのなら どんな場所へも連れて行く」というサビを聴けば、ジョーが死にかけのリコをフロリダに連れていく姿が浮かんで胸が締め付けられます。あのPVもいろいろな深読みができてしまいます。


けれども、それでいいのです。平成っこたちは歌い手も聞き手もそんな切なさや感慨を抱く必要はないのです。Mステでこの曲を披露した時、「初のラブソング」というテロップが出ていました。平成っこたちはこの曲を「ちょっと雰囲気のあるラブソング」だと思っていればいいのです。


このような曲に対する深読みと一方的な解釈、それは普段「昭和でSHOWは無理!」という歌詞にやけくそでレスポンスするしかない大人のわれわれにとって、平成っこの優位に立てる数少ない場なのです。


子ども向けの作品にはしばしばメタフォリカルな表現が含まれています。「『星の王子さま』はラブストーリーである」とか「『千と千尋の神隠し』は風俗の話だ」というような解釈をすることは大人に許された特権です。「解釈」なんていうと聞こえはいいけど、結局のところその作品を純粋に楽しむ子どもたちを見てにやにやする大人の悪趣味な楽しみです。酒を飲みながらこの手の話をすると、どんな相手でもかなり盛り上がります。


真夜中のカーボーイ」なんて知るわけがない子どもに「真夜中のシャドーボーイ」という曲を歌わせる。
そして一生懸命歌う子たちとそれに熱狂する子たちを少し離れたところから見て楽しむ。
なんて隠微な楽しみなのでしょうか。


アイドルは懐が広いです。表面だけをなでてひたすら楽しむも良し、その裏に秘められた事情を深読みするも良し。

アイドルとは少し離れたところにある透明なグラスのようなものだ。そのグラスには空気以外何も入っていないのかもしれないし、水が溢れんばかりに満ちているのかもしれないし、あるいは重い水飴が詰まっているのかもしれない。どれも無色透明なので見ただけでは判別できず、実際に手に取って確かめる術もなく、私たちはただ少し離れたところから見ることしかできない。


これは2年くらい前の私の日記からの抜粋なんですが、アイドルのこういうところが私は本当に大好きで、その気持ちを「真夜中のシャドーボーイ」が久しぶりに思い出させてくれました。今日も「真夜中のシャドーボーイはエロい!!」と大人の楽しみ方をしながら、元気に生きていこうと思います。