愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

入院8日目(手術日)

急な手術となったため、手術前日の夜に家族と共に手術の説明を受け、数種類の同意書に署名した。気胸全身麻酔の手術となるが、麻酔で寝ぼけて暴れた時に身体を拘束することに対する同意書なんてものもあって、なかなか興味深い。2度目の手術ということで、特に質問もなかった。

手術に向けて、親に地下の売店でT字帯を買ってきてもらう。T字帯、分かりやすく言えばガーゼのふんどしである。全身麻酔の間は自力で排泄ができない。そのため尿道カテーテルを入れ、T字帯という簡易ふんどしを履くことになる。かつてラジオ内のヘイセイワーズというコーナーで「ふんどし履いてきちゃった」という意味不明なワーズを言わされたり、銀幕上でふんどしをしめたチャーミングなおしりをおしげもなく晒した知念様の愚民としてはふんどしバッチコイである。


手術は11:30からの予定となった。前日は普通に食事をとり、21時以降は水とお茶以外は禁止となる。また手術当日は食事なしで、代わりに500mlのOS-1(甘くないポカリのようなもの)を2本渡される。午後の手術だと2本飲まないといけないが、私はギリギリ午前だったため、9時までに1本飲むように言われる。9時以降は飲食は一切禁止となる。

手術の前には血栓防止のためメディキュットのような締め付けの強い膝丈靴下を履く。ほぼ一日動かないので、何もしないといわゆるエコノミークラス症候群になってしまうらしい。靴下と浴衣のような手術着だけを身につけて手術を待つ。もちろん下着も着ない。ふんどしもといT字帯は手術中につけてもらうので、看護師さんに渡す。


予定通り11:30に手術室に呼ばれた。手術室までは歩いて行ったが、管が痛くて結構歩くのが大変で、看護師さんに「車椅子にすればよかったね、ごめんね」と何度も言われた。
最初の部屋に入ると、待ち構えていた看護師さんたちに髪をまとめられ、シャワーキャップのようなものを被せられる。部屋はひんやりとして、全体的に緑っぽい。どうでもいいが、手術関係の部屋や服が緑や青が多いのは赤、つまり血の色の残像が緑色だからなんだそうだ。

手術室に入ると台の上に仰向けに寝かせられ、体の上に保冷バッグの裏地みたいなものを被せられる。そこで手術着は脱がされて全裸になる。右腕には血圧を図るための布が巻かれ、左指に酸素濃度を測るクリップ、左腕に点滴が刺される。

続いて脊椎麻酔を入れるため、横に寝るように言われる。右胸には管が刺さっているため、左を下にして横に寝転がる。まずは注射で部分麻酔をし、それから脊椎麻酔の針を刺す。この針は大分長いらしく、カチカチカチと何回かに分けて刺されるのだが、痛みはそこまでないものの何とも言えない嫌な気持ちになる。胸に管を刺す時も思ったが、人間は生理的に異物の侵入が不快になるように出来ているんだと思う。この麻酔を入れるのがかなり嫌なので、全身麻酔の後に入れてくれよと思うが、痺れ等がないか確認するため意識がある間にしないといけないらしい。脊椎麻酔は痛み止めとして手術後もしばらく刺したままとなる。丸まってる間は前にいた若い看護師さんがずっと体をさすってくれていた。


脊椎麻酔が終わると、再び仰向けになり、酸素マスクが口にかけられる。
「まだガスは出てません。まずは眠くなる点滴をします。段々ぼんやりとしてきます」と言われた途端に眠気に襲われる。手術室の時計が昼の12時過ぎを指していると思ったところで意識が途切れた。全身麻酔は本当にドラマのように視界がぼやけたかと思うとあっさり意識がなくなる。手術中は呼吸のため喉から管を入れているらしいが、まったく記憶はない。ただ術後はしばらく喉がほんのり痛い。

ドラマだと病室で自然に目が覚めて、家族に「手術は成功よ」なんて言われることが多い気がするが、実際には手術室にいる間に名前を呼ばれて意識を戻される。
声をかけられて目覚めた時、時計は2時過ぎを指していた。そのまま病室に運ばれるが、一旦は目が覚めてもうつらうつらしていて、夕方頃まではほとんど眠ってしまう。


手術自体は眠ってしまうので、痛みはない。何度も言っているが、痛みはいつも夜に来る。手術をした日の夜、地獄のような一夜が訪れる。