愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

遠きにありて思うもの

PARADEコンの感想で、ジャンプは箱庭みたいなグループだと言った。
ジャンプという大きな箱庭の片隅には、かつて圭人と知念様が作った、誰も知らない小さな小さな箱庭があった。

いまでこそ、ジャンプはメンバー同士の仲が良くて、一歩中に踏み込めばどこまでも平和な世界が広がっている。だけど、最初からこんなに牧歌的なグループだったわけではない。
ジャンプ結成にあたって、Ya-Ya-yahJ.J.Expressというジュニア内ユニットが解体され、主力メンバーが選抜された。そこに当時怒濤の勢いで成り上がっていた山田くんが投入され、ほとんどジュニア活動をしていなかった知念様と圭人も加わった。

ヤヤヤやJJEのユニファンの悲しみ、デビューを抜かされたジュニアたちの嘆き、っていうか知念と圭人って誰?なんでいるの?という疑問、そんなジャニオタやジュニアたちの負の感情を背負い、「喜び悲しみ受け入れて生きる」と歌いながらデビューしたのがHey!Say!JUMPだった。

圭人と知念様にはジュニアとしての歴史がない。2009年の冬コンで、ジャスワナの振りが入っていない知念様を見て切なくなった。知念様以外のバックは山田くんともったんで、当たり前のように何十回も踊っている曲だから、振り合わせもろくになかったんじゃないだろうか。そういうふとした瞬間の疎外感や異物感が、知念様にも圭人にもあったと思う。そんな二人だから、肩を寄せ合うように仲良くなった。

私が初めてKC(私は圭人と知念様のコンビをこう呼んでいる)に興味を持ったのは2010年年明けのジャンプコンのMCだった。
突然、知念様が『圭人!いつもやってる工藤新一の物真似やって!』と言い出して、他のメンバーがぽかーんといている中、圭人はまったく似てない物真似をやり始めた。いつもやってるのに他のメンバーが知らないのも不思議だったし、それを見て楽しそうに笑っている知念様はとてもかわいかった。それは知念様かっこいい教信者だった私にとって、かなり衝撃的な出来事だった。

KCのエピソード中で一番好きなのは、二人で渋谷から四谷まで歩いた話だ。

知念:あ、でもさー、一回流行ったのがさー、二人で、どこまで歩く、みたいなね。
岡本:あ、あったね!
知念:一回、渋谷から四谷まで歩いて。
岡本:渋谷から四谷まで歩いたね。
知念:それから、なんかさ。
岡本:3時間半くらいかかったよね。
知念:けっこう、僕たち寄り道もしたもんね。
岡本:うん。けっこう、たのしかったよ。
知念:たのしかったー。
岡本:ふふふふ。
知念:意外とたのしかったよね。
(『Ultra Power』2008年10月20日 岡本・知念)

p.s.ゆうりへ、この前二人で三時間くらい歩き続けた時、意外と楽しかった(猫の絵文字)また今度行こうね(^_^)
(『JUMParper』2008年6月29日 岡本)

こないだ、渋谷から四谷まで歩いたんだ。途中で神社があったから、お参りしようと思って中に入ったら、ちょうど結婚式をやってたの。花嫁さんも見られたよ。嵐のアルバムを聴きながらブラブラ街を歩くのって、結構楽しかった。3時間半くらいかかったかな。汗いっぱいかいた。(岡本)
(『Duet』2008年9月号)

岡本:ぶっちゃけ、JUMPが結成された当時は、いちばん仲よかったよね。知念としか話してなかったってくらいに。
知念:「取材現場まで歩こ!」って5駅分歩いたりね。
岡本:そのとき、おたがいの音楽プレイヤーで同じタイミングで嵐の曲を再生したり、かわいいことしてたのに…。
(『Myojo』2012年2月号)

私の中で、このエピソードは二人の原風景だ。
2008年の初夏、まだ小学生に見えるくらい小さかった14歳の知念様と、体こそ大きいものの拙い日本語しか話せないいたいけな15歳の圭人が、二人きりでずっと歩いていた日のことを思うと、あまりの頼りなさに涙が出る。

そんな二人が渋谷から四谷という大都会を歩きながら、お互いの音楽プレーヤーで同時に同じ曲をこっそりかける。
その瞬間、大きな街は単なるジオラマになって、二人だけの小さな箱庭の一部になる。

あの頃、ジャンプの中で異邦人のようだった二人は、居場所を作るためにそういう二人だけの世界をそこかしこで作っていたんじゃないだろうか。二人だけが知っている、ささやかで密やかな小さな箱庭。
時々、そこで二人だけで大事に育てている何かがふとした瞬間に芽吹いて、外の世界に零れ落ちることがあった。それを拾い集めるように、私はコンサートに通い詰めていた。

2014年くらいから知念様と圭人は目に見えて仲良くなって、密やかさがなくなった。ジャンプのメンバー同士が仲良くなり、ジャンプ自体が大きな箱庭になっていったので、密やかでいる必要がなくなったんだと思う。そうして、二人の箱庭は徐々に同化していっていた。

二人がひっそりと作っていた箱庭は『僕とけいと』という曲で一気に表に出て、みんなを取り込むくらい広がって、そしてそのままシャボン玉がはじけるように失われてしまったのかもしれない。

『僕とけいと』は2016年に発売されたJUMPのアルバム『DEAR』に収録されている圭人と知念様のユニットソングだ。『真剣SUNSHINE』の特典映像「第2回 ジャンジャン答えて!!ジャン!ジャン!JUMQ」内で、たまたま同じ色のカラーボールを引き当てて、ユニットを組むことが決まった。

私はKC厨だったけど、圭人と知念様がニコイチだと思ったことはない。二人とも正反対で、何もかも似ていない。どこまでいっても圭人と知念様は1+1=2で、それ以上にもそれ以下にもならない。
共通点もほとんどない二人だから、ユニットを組んだ時、二人自身のことを歌う以外やりようがなかったんだと思う。二人によく似た虚構に身を任せるのでもなく、本当にただシンプルに二人の世界を描いた、二人にしか歌えない曲を当たり前のように歌った。

『僕とけいと』はバクステから始まって、途中で一緒にトロッコ(別々のトロッコではない。一つのトロッコである。アリーナにたった二人しかいないのに)に乗り込んで花道で降りて、センステに移動して終わる。決してメインステージには行かない。その代わり、片時も離れない。
センステでは謎のダンスをする。会場の誰よりも二人が楽しそうな、不思議で意味の分からない時間で、あまりにも理想のKCの姿だった。

『僕とけいと』は知念様視点のようなタイトルだが、特にそういう意図で作られたわけではない。タイトルを「僕とけいと」と「俺と知念」のどっちにするか悩んで、響きがかわいいから『僕とけいと』にしたと当時言っていた(気がする)。だけど、改めて聞くと、知念様の祈りみたいな曲だと思う。

「あ~ずっとこのまま居れたらいいな」
「絶対二人いつでも一緒だよ」

知念様が圭人と四谷まで歩いた時、神社で何を祈ったんだろうと時々考える。
きっと、知念様はこういうことを願っていたんじゃないだろうか。
知念様はおじいちゃんになってもジャンプでいたいとよく言っていた。永遠は願った瞬間から終わりが始まるような気がする。そして、知念様自身も本当はそのことを理解しているんだと思う。

KCは約束をしない。誕生日もクリスマスも何度も一緒に過ごしておいて、たまたま一緒だったと言う。
きっと圭人が日本を離れるときも、知念様個人としては圭人と何の約束もしなかったんじゃないかと思う。FC動画で圭人の話を聞く知念様の表情は、ただただ圭人を受け入れていた。

ジャンプという箱庭を出たからこそ、もしかしたら二人は別の箱庭を作れるかもしれない。KCのことだから、それが分かるのは10年後かもしれないし、一生明かされないのかもしれないし、大人になった二人にはやっぱりそんなものは必要ないのかもしれない。

去年のMステで、知念様はこう言っていた。

タモリ:知念は思い出の恋歌ありますか?
知念:そうですね。僕はあのYUIさんのCHE.R.RYですね。あのいま、海外に留学しているメンバーの岡本が教えてくれて、それをずっと、中学生のくらいの時ずっと聞いてましたね。
(『ミュージックステーション』2020年10月2日放送)

中学生の時の圭人との思い出を、宝物みたいに大事に語る知念様は何も変わっていない。
あの頃の二人の中には、誰にも触れない二人だけの儚くてやさしい世界が確かにあって、それは二人の中に今もこれからも、密やかに息づき続けると私は信じている。