愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

アイドル映画『兵隊やくざ』

やっぱり『兵隊やくざ』は面白い。大宮暴れる→有田上等兵が機転をきかせてかばう→大宮上等兵に感激→酒を飲む→女を抱く→大宮報復される→有田上等兵が機転をきかせてかばう→大宮上等兵に感激→酒を飲む→女を抱く→大宮暴れる→……と102分の中で既にマンネリズムに陥っている。このシリーズは全9作らしいが、見なくても偉大なマンネリズムシリーズであることが分かる。でも、それがいい。意外性なんてどうでもいい。マンネリ、予定調和、ご都合主義、どれも素晴らしい。
のらりくらりと毎日をやり過ごし、内地に戻る日を待つだけだった有田上等兵にとって、彗星のごとく現れて突飛なことを繰り返す大宮は非日常の権化だったことだろう。そんな大宮の非日常性を尊重し、かばい続ける有田上等兵のことを大宮は不思議がる。

アイドルの魅力は「非日常性」にある。灰色の日常生活に鮮やかな色彩を添える存在であり、彼ら彼女らを見ている時は現実を忘れる。また、アイドルにはマンネリズムが必要である。山田くんは何度でもファンに「愛してる」と言わなければならないし、滝つはファンに「タッキー」「翼」と呼ばせ合う合戦をしなければならないし、ふみきゅんはマツジュンとキムタクの物真似をしなければならないし、チビジュは海パンいっちょで水浴びをしながら『勇気100%』を踊らなければならない。意外性は歓迎するが、最終的には予定調和のマンネリズムに安堵する。アイドルは非日常的マンネリズムだ。だから、コンサートの最中に結婚の発表なんて絶対にしてはならない。

最初は上官として大宮を指導していた有田はいつしか大宮の後をついていくようになり、最終的には「これからはお前が俺の上官だ」と大宮に言うようになる。その姿は最初はアイドルを呼び捨てにしていた一般人が、段々アイドルの魅力にのめりこんでいき、最終的には「様付け」で呼んで崇拝せざるをえなくなってしまったヲタに通じるものがある。有田上等兵にとって、破天荒な大宮は無法で理不尽に満ちた軍隊生活に彩りを与え続けるアイドルだったんだと思う。

非日常的なマンネリズムに満ちた『兵隊やくざ』は最高のアイドル映画だ。「黙って俺についてこい」と言い放つ勝新は最高にかっこよくてチャーミングなアイドルだ。