愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

プリズム

殺された小学校の女教師山浦美津子をめぐり交錯する思いと推理。「虚飾の仮面」「仮面の裏側」「裏側の感情」「感情の虚飾」という4つの章立てで構成されており、それぞれに違う語り手が違う推理をめぐらしている。読み終わって、この章ごとのタイトルに納得。上に書いた通り美津子を殺した犯人をそれぞれの章の主人公(というほど強くないが)が推理していくのだが、彼らは故人を悼んで犯人探しをしているのではなく、自分が美津子に対して持っている複雑な感情をふっきるために犯人探しをしている。自殺の原因を探る携帯めぐりの旅を通じて主人公たちの自分探しを描いたドラマ「彼女が死んじゃった。」に通じるものを感じた。
章が進むにつれ、美津子のイメージは「子供の目線で物事を見ることができる純真な教師」から「わがままで奔放だが魅力的な女性」へと変わっていく。あるところで彼女のことを「目まぐるしく姿を変える万華鏡か、あるいは様々な色の光を乱舞させるプリズムのようだった」と言い表しているが、これはこの小説全体に言えることで、目まぐるしく変わっていく美津子のイメージと、様々な視点から繰り広げられる推理は読者にとってまさに「様々な色の光を乱舞させるプリズム」のように思える。よくできたタイトルだと思う。一つの殺人をめぐり複数の視点から推理の材料が与えられる点が芥川龍之介の『藪の中』を連想させたので、『藪の中』的ラストだったらどうしようと思っていたのだが、結局は…。(ノーコメント)
あとがきを読むと、作者はこの小説をある小説の後継と位置付けている。それを私は読んだはずなんだけれど、まったく内容を覚えていない。いかに自分が散漫な読書をしてるかということを思い知った。本を読んだって身にならなきゃ意味ないってことは分かっているんだけど、私の脳ミソは容量が少ないから読んだ端からこぼれていくのよ。
『プリズム』貫井徳郎 創元推理文庫 ISBN:448842502X