愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

知念様の手のひら

突然、谷山浩子さんにハマりました。部屋を片付けていたら大学生の時にもらった先輩セレクションの谷山浩子のCDが出てきて、なんとなく聴いていたら『窓』という曲の歌詞があまりにも切なくて、そのまま他の曲も聴いているうちにずぶずぶと抜け出せなくなってしまいました。
谷山さんは、たとえばダイヤモンドの小さな粒をあやまって飲み込んでしまったら、迷わず体を引き裂いてそれを取り出そうとする人なんだと思います。谷山さんの曲はそうして赤く染まったダイヤのように、少し怖くて淋しくて美しい。
その迷いのないどうしようもない淋しさが、なんとなくサマリーの時の知念様に感じた諦観を思い出させたので、今更なんですがサマリーの知念様の話をします。基本的に自分が受けたファンサービスや席の話はしない主義なんですが、今回だけはそういう話から始まりますので、お嫌な方は見ないで下さい。




今年の春コン、一人だったのになぜか座席が親子席の着席ブロックだったことがありまして、恐れ多くもその時知念様のご慈悲(握手)をたまわることができました。知念様の手はとても小さくて*1柔らかくて温かくて、うっすらと湿っていました。知念様らしい奥ゆかしい生命力に満ちた手のひらでした。
そこから4ヶ月後、知念様が鬼のファンサービスを決行していたサマリーにて、再び同様のご慈悲をたまわる機会を得ることができました。その感触が春とあまりに違っていて、そのことに私は少なからず衝撃を受けました。
知念様の手のひらはかさついていて、少し皮が剥けていました。空中ブランコが原因でできた肉刺の感触でした。体温はあまり感じられなかったような気がします。冷たいのでも温かいのでもなく、感じなかった。


知念様は空中ブランコについて、「意外とすぐできた」「楽しかった」「失敗する気はしない」と断言していて、ネガティブな言葉はほとんど言いませんでした。空中ブランコに限らず、知念様は基本的に自分のすべきことに対してネガティブなことは言いません。知念様はリアリストだけど、言霊は信じているような気がします。いや、「口に出す」「信じる」という行為が心に与える影響を知っている、と言った方がいいのかもしれません。それは先日のラジオのお悩み相談で、ものすごい頻度で怪我をする女の子に対して「お祓いをしてもらった方が良い」とアドバイスしていたことからもうかがえます。「簡単にできる」と口に出して信じること、それを周りにも信じさせること、それが知念様の精神的な強さの支柱なんだと思います。私はそんな知念様が好きです。そんな知念様の圧倒的な力に押し流されることが至福なんです。


けれども、知念様の手のひらに触れて、知念様の華麗な演技の裏には努力があるということに唐突に気付いてしまったんです。いや、そんなことずっと前から知っていたんですけど、でもその瞬間、実感を伴って気付いてしまったんです。知念様は「できることしかしない」と言います。でも、できるからと言って努力をしていないわけじゃないんです。知念様の手のひらの肉刺は努力の象徴です。あの演技の裏に、知念様が流した汗や手の痛みは確実に存在していたんです。明星10月号では珍しく「手がマメだらけになって最初は痛かった」とネガティブな情報を提供して下さいましたが、あくまで「最初は」という部分を強調しているんですよね。すぐに「全然平気。案外スムーズにできちゃった」とポジティブな言葉に上書きされ、そして痛みは知念様の小さくてかさついた手のひらの中に隠されてしまう。そうして、汗も痛みも潰れた肉刺の皮が剥けて新しい皮膚が再生するように、知念様自身にも忘れ去られてしまうのかと思うと、なんだか淋しくてたまらなくなるんです。

いくつも街を歩くうちに いつか外の世界は狭くなる
教室の窓がもう見えない 夢の行き場がどこにもない
谷山浩子『窓』)


知念様はきっとこれからも色んなことに挑戦して、そのたびに汗や痛みを人知れず葬っていき、彼の知らない世界はどんどん狭くなっていくんでしょう。そうやって、自分の中のものをどんどん切り捨てていって、少年期が終わった時に知念様の中に残っているものはなんなのか。知念様が本当に知念様らしく存在できる場所は残されているのか。最近の知念様がファンに向ける綺麗だけど温度の感じられない陶器のような笑顔(であるように私には思える)を見ていると、少し不安になるんです。


ただ、もう何度も言っている気がしますが、知念様ってメンバーととても良い関係を築いているんですよね。
サマリーの初日だったと思います。ラスト近く、別々の方向からフライングを始めるセブンとベストが空中ですれ違う時、知念様が薮くんに向かってすっと手を伸ばしたんです。まるで小さなこどもが母親に向かって手を伸ばすみたいに。薮くんに手を握られて知念様がすごく安心したみたいに笑ったのを見て、なんだか泣きそうになりました。重い荷物を下ろした時のような、ほっとしたような笑顔でした。
OPのフライングでは、知念様は左手を薮くん、右手は圭人とつないでいました。手をつなぐ時には、当たり前だけど、上から手をつなぐ人と下からつながれる人がいて、知念様は両手とも下からつながれていました。この時の知念様はとても楽しそうで、私はそんな知念様を見て毎回嬉しくなっていました。


知念様は自分の努力を他人に気付かれることを望んでいません。ただ、自分が手を開いた時に誰かが握ってくれれば、知念様はもうそれだけでいいんでしょう。それでもいいんです。いいんですが、欲をいえば、誰でもいいから知念様の固くなった手のひらの皮膚に気付いて欲しい。気付いた上で気付かないふりをして、そのまま手を握り続けてほしい。そういう人がいないと、知念様はこれから行き場がなくなってしまうような気がします。そんな自分すら、知念様は覆い隠してしまうんでしょうが。


*1:というか、私の手は下手な男性よりでかい……