愚民159

人はただ十二三より十五六さかり過ぐれば花に山風

2011-03-18 ミュージックステーション

ひな壇に座って前を見据えている山田くんを見て、「これはサマリーの山田くんだ」と思いました。サマリーの初日、綱渡りを失敗した山田くんはまさにこの能面のような表情をして、ずっと正面を見据えていました。山田くんのあの表情は、山田くんのアイドル性の臨界点なんだと思います。自身の責任感や緊張感が最高潮に高まった時、彼はいわゆる凪の状態になるのでしょう。それは圧倒的な静けさです。台風がその真ん中に目と呼ばれる凪の状態を持っているように、山田くんは激情の中心に凪を持っている。

今週のMステに予定通りNYCが出演すると知った時、まず最初に思ったのは山田くんのことでした。私は知念様ファンですが、アイドルとしての正しさに絶対的な信頼を置いているのは山田くんです。知念様のアイドルとしての自己演出能力の高さは他の追随を許さないと思いますが、本質的なアイドル性の高さは知念様は山田くんには勝てないと思います(アイドル性というのは性質の問題で、実際には勝ち負けで語れるものではないと思いますが)。

知念様は基本的にはアルカイックスマイルを常にたたえていました。ひな壇では出演者の方にことごとくかぶりまくりで表情がほとんど見えませんでしたが、きっとずっとそうだったんだと思います。あれが知念様のアイドル性です。アイドルは常に笑顔でいるべきだという知念様の中のアイドル論に基づいた表情だったんでしょう。私はそういう知念様が好きです。
ひな壇にいる時も、歌っている時も、終始硬い表情でどことなく落ち着きのなかったゆまたんも愛おしいです。少し目が充血していたことも含めて、私はゆまたんの派手な外見に反した素朴な人間性が好きです。ゆまたんのあの素朴さは時折NYC内でエアポケットのような役割を果たしているような気がします。


基本的に知念様もゆまたんも、歌う前も後も表情をほとんど変えなかった気がします。そんな中、それまで誰よりも硬質な表情を保っていた山田くんの表情が、「勇気100%」が始まった瞬間に一気に軟化しました。
山田くんはタモさんに対してこうコメントしました。

「今、日本の各地で起きている大きな被害を僕たち自身、そのテレビの報道を通してとても心苦しく思っているんで、考えた時に、まだ若い僕たちに何ができるだろうと考えた時に、本当に少しのことしかできないと思うんですけど、今から歌う『勇気100%』という曲を通して、日本全国の皆さまに明るさ、そして笑顔を届けられたらいいなと思ってます」

その通り、歌っている山田くんはずっと笑顔でした。本当に柔らかい笑顔でした。それまでの山田くんは小さい子が見たら泣きだすんじゃないかというくらい硬い表情でしたが、歌っている時の山田くんの笑顔は誰よりも柔らかくて、すべてを包み込んでくれるような本当に素敵な笑顔でした。

私はやっぱりサマリーの初日の山田くんを思い出しました。綱渡りに失敗して悔しかっただろうに、それでも最後の挨拶で泣きながら「嬉しい」と言った山田くん。悔しさや悲しさをファンへの想いに変えて差し出してくれる山田くん。山田くんのアイドル性はフィルターのようなものなのかもしれません。それを通せばすべては光に包まれる。


アイドルという肩書きはとても儚いと思います。紙っぺらみたいに薄くて、吹けば飛ぶようなものです。彼らが平和について直接的に語る必要はないと思います。なぜならアイドルは平和な時にしか存在できないからです。彼ら自身が平和の象徴だから、アイドルは平和について語る必要はないんです。

タッキー&翼は「愛はタカラモノ」を歌いました。陽気に歌い踊るあの曲を見て、こんな時に不謹慎な、と思う人もいたんじゃないかと思います。タッキー&翼にもバラードや平和を歌った曲はあります。けれども、私はあえてあの曲をやることに意味があったと思います。曲や演出を決めたのが誰なのか私には知る由もありませんが、あの曲を歌って踊ることに私はアイドルとしての勇気をすごく感じました。今の彼らがなすべきことは悲しみを表に出さず、笑うことなんです。そのことに私は覚悟と勇気を感じるんです。

NYCはOPでは3人とも真っ白な衣装を着ていて、その清潔感溢れる姿に少し神妙な気持ちになっていたのですが、途中でまさかの衣装チェンジがあって、山田くんの衣装の「%勇気」という部分が映った時に思わずテレビに向かってつっこみました。まさかこんな時に誰もが苦笑しながらつっこんだあの「勇気100%」Tシャツを着てくるとは。だけど、そのギャフン感も含めて、NYCはアイドルとしての務めを完全に果たしていたと思います。そしてその中心でそのアイドル性を如何なく発揮していた山田くんは本当に素晴らしかったと思います。
先に挙げたコメントで、地域を限定せずに「日本全国の皆さまに明るさ、そして笑顔を届けられたらいいなと思ってます」と言った山田くんは正しい。被災地の方はもちろんだけど、日本中が悲惨な映像を通して暗くなっている中、それをすべて照らそうとする山田くんは正しい。このコメントだってどこまでが山田くん自身の言葉かなんて分からないけれど、それでも山田くんはたぶん本気で日本全国に届けるつもりで笑っていたんだと思います。

「僕たちに今できることは、これからを生きていく子供たちに勇気を与えることだと思います。がんばる気持ちを忘れないで。勇気100%」

Mステに子供代表として出たNYCは、3人とも本当にとても素晴らしかったです。ありがとうございました。
最後にほっとしたのか、素の表情で微笑む知念様がかわいかったです。